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公開日:2019/04/18 更新日:2023/03/03
遺言書の遺し方・開封の仕方と、知っておきたい遺留分という権利
最近、「終活」が話題となっています。自分の人生を振り返り、いつか来る別れの日に向けて、身辺の整理をしていく活動ですが、多くの方が実際に終活を始めています。その中でも残された人々に大きな影響を与えるのは、遺言書の作成です。遺言書とはどんなものなのでしょうか。遺言書について知っておきたいことをご紹介します。
【遺言書とは】知っておきたい遺言書のあれこれ
遺言書とは、自分の死後、想いや考えを周囲の人々に伝えるために、生前から準備しておく手紙の事です。まずは遺言書の基礎的な知識についてご紹介します。
遺言書は3種類ある
遺言書は一般的に「ゆいごんしょ」と呼ばれていますが、正式には「いごんしょ」と読みます。耳慣れないので戸惑うかもしれませんが、同じものです。
遺言書、といっても、3種類に分けられます。それぞれ性質が異なり、作り方や扱い方も違います。基本的な違いについて、まずは知っておきましょう。
【公正証書遺言】もっとも力を持つ遺言書
【公正証書遺言】は、もっとも力を持つ遺言書です。公正証書遺言は公証役場で公正証書として保管してもらいます。
公正証書遺言書とは、遺言書を残したい、という本人が依頼し、公証人が第三者として作成する、公文書として扱われる遺言書です。
公証人は、法務大臣に任命される、司法実務に深く長年関わってきた元裁判官などのプロフェッショナルです。そのため、法律にのっとった遺言書作りができるのです。
もっとも力を持つ遺言書で、公文書でもあるため「証拠」「証明」としての力も持ちます。自分の死後に、親族間のトラブルが起きないことを願って作成するのであれば、公正証書遺言がおすすめです。
【公正証書遺言】には大きなメリットがある
公正証書遺言は公文書です。また正本を公証役場で保管してもらえるため、自分の死後まできちんと残ります。そのため、非常に大きなメリットがあり、他の遺言書より強い力を持つのです。
メリット
・遺言書の紛失の心配がない
・遺言書の偽造を防ぐことができる
・遺言内容が無効にならない
・法律にのっとって作成できる
・自分で作成する必要がない
・秘密証書遺言や自筆証書遺言は家裁の検認が必要だが、公正証書遺言は必要ない
・家庭裁判所の検認を待つ必要がないのですぐに遺産分割ができる
誰にも絶対に内容を知られたくない、という場合は向きませんが、紛失や偽造、勝手な開封による無効などの危険はありません。
ただし、公正役場で作成してもらうため、有料です。費用は下で説明する【公正証書遺言の作り方】でご紹介します。
【秘密証書遺言】あまりメジャーではない遺言書
秘密証書遺言は、あまりメジャーではない遺言書です。公正証書遺言は有料なので、その費用を節約したいという場合などに活用します。
また、代筆やパソコンでの作成も許されるため、自筆で書きたくない、という方にも選ばれています。
最大のメリットは、内容を誰にも知られずに作成できるという点です。公正証書遺言は公証人に作成してもらうので、その秘密を洩らされることはありませんが、それでも他人に知られたくない、という場合に役立ちます。
最大のデメリットは、相続人が遺言書について詳しくない場合、勝手に開封されてしまうと内容が無効になる場合がある、という点です。
遺言書を遺した人物の死後、秘密証書遺言が出てきたら、絶対に開封せず、まず家庭裁判所に持ち込んで検認をしてもらわなければなりません。
【自筆証書遺言】自分で書く遺言書
自筆証書遺言は、自分で書く遺言書です。最近は、終活で役立つ「エンディングノート」などの付録としてついてくるものもあります。
自筆証書遺言はお金もかからず公証役場に行く必要もなく、気楽と言えば気楽ですが、すべて手書きで書かなければなりません。パソコンなどの使用はできません。
内容はもちろん、誰にも遺言書の存在すら知られずに済む、というメリットはありますが、死後も発見されないまま、故人の意思が反映されずに相続が終了してしまう可能性もあります。
また秘密証書遺言と同様、家裁の検認が必要です。勝手に開封されてしまうと無効になってしまうかもしれません。
遺言書が見つかったら絶対に開封しないで家庭裁判所へ
遺言書が見つかったら、絶対に開封しないで、一刻も早く家庭裁判所へもっていきましょう。勝手に開封すると、効力を失ったり、罰金を科せられる場合があります。
・秘密証書遺言
・自筆証書遺言
この二種の遺言書に関しては、公正証書としてまだ認められていません。そのため、家庭裁判所で検認を受け、偽造ではないことを証明してもらいます。
【検認の方法】
検認には、必要な書類があります。
・遺言書
・検認申立書
・遺言書をのこした故人の出生から死亡にいたるまでの戸籍謄本
・法定相続人全員の戸籍謄本
また、検認には約1ヶ月の時間がかかります。相続税の申告期限相続発生から10か月なので、なるべく早めにスタートしましょう。
ただし検認は遺言書の書式が公文書として機能しうるものかどうかを認めるもので、遺言の相続方法などの内容を家庭裁判所が認めるものではありません。
遺言書の作り方と保管の仕方
それでは、それぞれの遺言書の作り方と保管の仕方についてご紹介します。特に自作が必要な秘密証書遺言や自筆証書遺言の作成には、注意が必要です。
【公正証書遺言】の作り方
【公正証書遺言】は、公正役場で作ることができます。公証役場は全国各地にあり、ネットで検索できます。
【日本公証人連合会】公証役場一覧
公証人は公証役場で待機しているので、公証役場で手続きを行います。また出張して自宅に来てもらうことも可能です。
公正証書遺言の作り方の流れをご紹介します。
①遺言書に書くことをメモで良いのでまとめ、必要書類と証人2人を揃える
②お近くの公証役場を探して行く、もしくは出張をお願いする
③公正証書遺言を作成することを伝える
④公証人に遺言書に書きたいことの内容を伝える
⑤公証人が伝えられた内容で遺言書を作成する
⑥作成された遺言書は公正証書として公証役場に保管される
⑦依頼人には写しを発行してもらう
遺言書作成は出張してもらい、自宅など任意の場所で行うことも可能です。また筆談でも打ち合わせすることが可能です。
公正証書遺言では、必要になるものがいろいろあります。
【証人】
財産の相続人や公証人の親族、公証役場の職員や未成年以外の人物から、信頼できる「証人」を二人の人物にお願いしなければなりません。もし自分で探すことができないときは、公証役場で有料紹介してもらえます。
公正証書遺言を作成する際に立ち会ってもらうので、一緒に行ってもらうか、当日自宅など打ち合わせ場所になるところに来てもらいます。
【必要書類】
公正証書遺言を作成するにあたり、必ず書類が必要になります。
・遺言者本人の印鑑登録証明書
・遺言者と相続人の関係が明記されている戸籍謄本
・相続人の住民票
・不動産の登記簿謄本・固定資産の評価証明書
・自分で証人を用意する場合は、証人の氏名・住所・生年月日・職業
【費用】
公正証書遺言作成には、費用が必要になります。これは手数料令といって、政令で一律制定されています。
財産の評価額(相続人1人当たり) | 手数料(相続人1人当たり) |
---|---|
~100万円 | 5,000円 |
~200万円 | 7,000円 |
~500万円 | 11,000円 |
~1000万円 | 17,000円 |
~3000万円 | 23,000円 |
~5000万円 | 29,000円 |
~1億円 | 43,000円 |
1億円超~3億円 | 5,000万円ごとに13,000円を追加 |
3億円超~10億円 | 5,000万円ごとに11,000円を追加 |
10億円~ | 5,000万円ごとに8,000円を追加 |
上記の表は、相続人1人当たりの金額になります。同じ評価額の相続をする相続人が複数人いる場合は、相続人の人数分手数料がかかります。
事前に財産のある程度の価値と相続人の数を考慮し、手数料分の現金を用意しておくと良ですね。
【公正証書遺言書交付手数料】
公正証書遺言書の交付自体にもお金がかかります。正本1本あたり250円×枚数になります。また謄本も250円×枚数です。
【出張料】
公証人が任意の場所へ出張してくれた場合は、通常の1.5倍の手数料になります。
必要になる経費をまとめてみました。
・手数料×1.5
・公証人の日当…4時間まで1万円、それ以上は2万円
・公証人の交通費…必要分
秘密証書遺言の作り方
秘密証書遺言は、基本的に自分で作成します。秘密証書遺言の作り方
①自分の財産の評価額を全て調べる
②財産をどう分配するか、何に使うかを考える
③自筆、パソコンで遺言書を作成する
④遺言書に必ず本人が署名・捺印をする
⑤証人を2人選ぶ(配偶者など相続人や未成年は不可)
⑥証人に同行してもらい、遺言書を持って公証役場に行く
⑦公証人と証人に立ち会ってもらい、封をし署名・捺印してもらう
⑧封をした遺言書は自身で持ち帰り、保管する
【チェック機能がないので不備のある遺言書だと無効に】
公正証書として作成される遺言書は、もともと公文書として扱われるため、不備の心配はほぼありません。
しかし秘密証書遺言はチェック機能がなく、不備がある書式だと無効になってしまう可能性があります。
万一なんらかの不備があり、秘密証書遺言として機能しなかった場合も、自筆証書遺言としての体裁が整っていた場合は、自筆証書遺言として認められることもあります。
そのため、自筆で書いておいた方が安心ではあります。できるだけ注意をして作成するようにしましょう。書き方の注意点
・名前はできるだけ戸籍謄本にある本名・漢字で書く
・実印は氏名の下に捺す
・遺言執行者の指名・相続人の指名・相続財産の指示など明確に書く
・できるだけ具体的な数量で指示する
・預貯金の場合は銀行名・支店名・口座の種類・口座番号を必ず記す
・不動産は登記事項証明書を添付して、どこを誰に相続させるか明記する
・抽象的な記述は避ける
・遺言書が複数枚になる場合は、両方の紙に印影が半分ずつ残る契印を捺す
・法定相続人以外の人間に財産を残す場合は【遺贈】と記す
自筆証書遺言の作り方
自筆証書遺言は、原則としてすべて手書きで、自分で書かなければなりません。
自筆証書遺言の作り方
①自分の財産の評価額を全て調べる
②財産をどう分配するか、何に使うか考える
③遺言書の内容を下書きする
④遺言書の本文、作成した正確な年月日、署名をすべて自筆で書き、実印を捺す
⑤封をし、銀行の貸金庫などに保管する
自筆証書遺言については、書店などに書き方と用紙がセットになったものが販売されています。またエンディングノートの付録になっているものもあるので、利用してみましょう。
書き方の注意点
書き方の注意点に関しては、秘密証書遺言とほぼ同様です。
・名前はできるだけ戸籍謄本にある本名・漢字で書く
・実印は氏名の下に捺す
・遺言執行者の指名・相続人の指名・相続財産の指示など明確に書く
・できるだけ具体的な数量で指示する
・預貯金の場合は銀行名・支店名・口座の種類・口座番号を必ず記す
・不動産は登記事項証明書を添付して、どこを誰に相続させるか明記する
・抽象的な記述は避ける
・遺言書が複数枚になる場合は、両方の紙に印影が半分ずつ残る契印を捺す
・法定相続人以外の人間に財産を残す場合は【遺贈】と記す
・封筒に入れて封をしたら、封印の代わりに実印を捺しておく
遺言書による相続
遺言書による相続は、どういったものになるのでしょうか。どちらが有効なのかを調べてみました。
遺言書と法定相続では遺言書が優先される
遺言書がある場合、法的に内容が認められるものであれば、基本的に遺言書が優先されます。
何度も書き換えることが可能な自筆証書遺言の場合、複数出てきた場合は最も新しいものが優先されます。
公正証書遺言がある場合も、検認されて相続人全員に内容が受け入れられるものであれば、より新しい自筆証書遺言が優先される、という決まりがあります。
その場合は公正証書遺言の中で自筆証書遺言と矛盾しない部分が、遺言として効力を持ちます。
遺言執行者
遺言執行者とは、遺言書に記されていることがきちんと執行されるように、見届けたりサポートをしてくれたりする第三者のことです。
遺言書に指名しておく以外に、死後遺族が家庭裁判所に依頼して選任してもらうという方法もあります。
遺言執行者は、弁護士や司法書士、信託銀行などに依頼すると、信頼性も高く法律にも通じているということで、スムーズに話が進むでしょう。
遺言書の【遺留分】について知っておきましょう!
遺言書に故人の意思が記されていても、相続人の権利がすべてなくなってしまうわけではありません。遺言書の【遺留分】が、相続人の権利を守るものになります。
【遺留分】とは相続人の持つ大切な権利
法定相続人が遺言書の存在を知らなかった場合、「だいたいこれくらいの財産は相続できるかな」と考えるかと思います。
それなのに、「全財産を寄付する」「全財産を赤の他人であるAに遺贈する」など、想像もしなかった内容が記されていたら、遺族はショックですよね。
しかし法律では、遺留分という名で、相続人の権利を守っています。ある程度故人の遺志を尊重しつつ、相続人の生活も最低保証してくれる制度です。
【遺留分】の具体例
・配偶者
法定相続分の1/2
・第1順位(直系の子ども・孫)の相続人
法定相続分の1/2
・第2順位(直系の親)の相続人のみの場合
法定相続分の1/3
・兄弟姉妹
遺留分はない
【遺留分】の時効
遺留分には時効があります。相続が発生し、法定相続分の相続がかなわないことを知った時から1年、または相続が発生した日から10年と定められています。
その間に遺留分請求をすれば、【遺留分減殺請求】といって、財産を実際相続人に対して、遺留分の権利の主張を行うことになります。
遺言書は3種類!相続人は遺留分についても知っておきましょう
遺言書は3種類あり、それぞれ手続きが異なります。遺言書を遺したいと考えている方は、終活をなるべく元気なうちにスタートし、財産をきちんと整理して、遺族が争うことのないように分割を考えておきましょう。
また亡くなった後にきちんと遺言書の存在が伝わるように、預貯金の通帳や有価証券などとともに、エンディングノートとまとめて保管したり、銀行の貸金庫に預けるなど工夫しましょう。
遺言書を受け取る相続人の方は、公正証書遺言の写しが出てきた場合は公証役場に、それ以外の遺言書が出てきた場合は家庭裁判所に相談しましょう。
また遺言書の内容にどうしても納得できない場合は、遺留分という権利があります。その点をしっかり覚えておき、時効までに遺留分請求の申請をしましょう。