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公開日:2019/04/01 更新日:2023/03/06
土地相続の基礎知識と、知っておきたい5つのトラブル&対策
遺産を分割する上で問題のなりやすいのが、土地の相続です。
しかし、相続に関するルールや手続きは非常に複雑であり、トラブルが発生することも少なくありません。
そのため、土地相続に関する基礎知識を理解し、トラブルが発生した場合の対策を準備、把握しておくことが重要です。
本記事では、土地相続の基礎知識と、知っておきたい5つのトラブル&対策について解説します。
相続とは?相続をする人とその取り分の基本
それではまず、「相続」とはどういうことなのかということからご説明していきます。そして、実際に相続するとはどういうことなのかも考えていきましょう。
相続とは死亡された方の財産を遺族が引き継ぐこと
相続とは、一般的に「死亡された方が所有しているさまざまな財産を、配偶者や子をはじめとした親族が受け継ぎ維持すること」を指します。
「この土地は先祖代々引き継いできた土地だ」
「この壺はご先祖様が殿様から拝領して、代々引き継いできたのだ」
こういった話を聞いたことはありませんか?これも、相続されてきたものの歴史のお話です。
そもそも相続の「相」は「すがた」を、「続」は「つづける」ことを指します。「すがたをそのまま続けること」が相続という言葉の本来の意味ということですね。
歴史あるものではなくても、人が亡くなると、その人が持っていた財産は親族へと「相続」され、引き継がれていきます。
相続するのは基本的に配偶者と子ども
相続に関しては、民法によって規定された手順やルールが存在しています。
相続人の範囲
必ず相続人になるのは、配偶者です。
配偶者とは法的に認められた婚姻関係にある人で、内縁関係の人は相続人とは認められません。
死亡した人の配偶者は優先的に相続人となり、その他の親族のうち相続順位の高い人と、財産を分かち合うことになります。
第1順位
配偶者のほかに親族がいる場合の第1順位は、死亡した人の子どもです。
子どもは特別養子縁組の養子や認知を受けた非嫡出子も含まれます。普通養子の場合は人数が限られています。死亡した人の子どもが亡くなっている場合は、その直系の子どもや孫、ひ孫、玄孫……が相続人になります。
子どもと孫、ひ孫など、直系の子孫がたくさんいる場合は、より近い世代が相続人になります。
第2順位
第1順位の子ども・直系子孫がいない場合に相続人になる立場の人です。
第2順位には、死亡した人の直系の父母・祖父母があたります。
父母も祖父母も存命の場合は、より近い世代の父母が相続人になります。
第3順位
第1順位の人も、第2順位の人もいない場合に相続人になります。
第3順位には、死亡した人の兄弟姉妹があたります。兄弟姉妹が死亡している場合は、その子ども(甥・姪)になります。この場合は一代限りまでと決まっています。
法律上、直系の子孫のことを直系卑属、直系の先祖のことを直系尊属と呼びます。
また、「法的に認められる遺言書」で相続に関しての指示があった場合、これらの順位は必ずしも守られません。
相続の取り分は配偶者が最も多いのが普通
相続の取り分は、配偶者が最も多くなります。それは財産を分かち合うのがどの順位の親族であっても同様です。
・配偶者と死亡した人の子どもが相続人のケース
財産は2分割される。
1/2は配偶者。
1/2は子ども全員(認知された非嫡出子も含む)に等分される。
・配偶者と死亡した人の親・祖父母が相続人のケース
財産は3分割される。
2/3は配偶者。
1/3は親・祖父母全員に等分される。
・配偶者と死亡した人の兄弟姉妹が相続人のケース
財産は4分割される。
3/4は配偶者。
1/4は兄弟姉妹全員に等分される。
※甥姪の代になっているきょうだい分は甥姪も人数分、兄弟分として計算
※半血兄弟姉妹の場合はさらにその1/2
これらはあくまでも「民法上の見本の分け方」です。亡くなった人の配偶者と親族が話し合い、配偶者だけがすべての遺産を相続することもあります。
子ども達の中でも、介護を1人で担ってきた人が多くもらい、その他の兄弟はそれを考慮して少ない額で納得するということもよくあります。
また相続をあえて放棄することも可能です。財産を持っている人の死亡を通知された日から数えて3か月、財産を放棄する手続きをすることができます。
相続はなぜトラブルになりやすいのか
相続財産には、現金や有価証券をはじめ、さまざまなものが該当します。中には価値のあるものばかりでなく、債務財産という借金や未払い医療費といった「負の遺産」が含まれるケースもすくなくありません。また死亡退職金や死亡保険金など、これから受ける「みなしの財産」も含まれます。
中でも相続の話し合いの中で、トラブルになりやすいのが【土地や不動産】といった財産です。お金と違って、土地や建物はきれいに分けることができません。ではどういったトラブルが起こりやすいのでしょうか。
財産はケーキのように切り分けられない
財産は、すべて現金で遺されるわけではありません。現金、有価証券、土地、建物、なんらかの権利書など、実に多彩です。先ほど、民法上の財産分与の見本をご紹介しましたが、そんなに簡単に、ケーキやピザのように切り分けられるものではないのです。
財産相続をめぐる法律相談件数は、この10年間で1.6倍に増加しています。
また遺産分割事件も10年で1.3倍に増えました。
いかに相続をめぐる親族間の意見相違が増えてきているか、よくわかりますね。
相続の話し合いは葬儀の混乱の中で進められることが多い
相続の話し合いは、お通夜やお葬式など、葬儀関係の儀式で親族が集まった中で進められることが少なくありません。
みなそれぞれ仕事を抱え、地方では都会に散っていった子ども達が久々に顔を揃えたということもよくある話です。
そんな混乱の中で、普段からコミュニケーションを取っていない親族同士が話し合っても、スムーズにまとまるとは思えませんよね。
実際に、こういったことが問題になります。
- 残された配偶者である高齢の親をどうするかでもめる
- 親の介護を担ってきた兄弟姉妹と、一切関与しなかった兄弟姉妹の取り分でもめる
- 誰も継がない実家の土地・屋敷・農地や山林を今後どうするかでもめる
- 先祖代々受け継いできた土地や建物を売りたい派と保存したい派が対立
- 法的な遺言書は無いが、親が兄弟姉妹に適当な口約束をしていてもめる
ドラマなどでもよくある話ですよね。葬儀では葬儀場や引き物の手配から続く法事の手配、小人落としの食事の手配に葬儀代の支払い、死亡した人が入院していた病院への支払い、親族や知人へのお知らせなど、細かな仕事が山ほどあります。
それを差配しながら、相続に関する話し合いでもめてしまうと、結局収集がつかなくなり、お通夜の寝不足状態に興奮も加わって、いつもより喧嘩状態になりやすくなるケースも少なくありません。
相続の話し合いは両親が健在なうちに行い、法的な遺言書を作っておく
こんな結果になってしまうと、財産分与が決まらず結局トラブルになったうえ、親族同士の仲が悪くなり、交流が途絶えてしまうということにもつながりかねません。それは、先に逝く親としても、残された子ども達にとっても悲しいことです。
そのため、相続に関しては、両親が健在なうちから定期的に両親と第1順位の子ども達が集まって話し合い、公正証書として認められる遺言書を作成しておくことをおすすめします。
一方的な押し付け内容の遺言書は、結局何も解決してくれません。親の気持ち、子ども達それぞれの思惑をしっかり話し合って、それぞれが納得・妥協できる内容を模索しましょう。
相続の実例と、よく起こりがちな5つのトラブル&対処法
それでは、ここで分かりやすい相続の実例と、起こりやすい5つのトラブルについて、対処法も合わせてご紹介します。
【実例】両親のうち、存命だった母が亡くなった3兄弟の例
まずは家族の状況からご紹介します。
【家族の状況】
・父は10年前に他界
・今回亡くなったのは母
・子どもは3人。普段から仲は良く交流がある
・母の預金通帳には、父から相続した900万円の預金が眠っている
・母の晩年の看病は、末娘が仕事を辞め同居して行っていた
【相続財産】
・実家 土地・建物合わせて価値は3000万円
・貯蓄 900万円
・計3900万円
【相続人】
・長男・次男・末娘の3人(子ども全員既婚・子どもあり)
①相続財産を平等に分けることにこだわって【共有持分】に
3人が財産を平等に分けようと考えた場合、現金を3分割、家や土地も3分割ということになります。
家と土地はそのままでは分割できません。
あくまでも「平等」を優先すると、3人が1000万円ずつ【共有持分】として相続することになります。
この結果、何が起きるかというと、3兄弟の子どもの代になって、再び相続問題が浮上するのです。
今ならすぐ顔を合わせられ、性格も熟知している兄弟だけで話し合いが進められますが、次の世代はいとこ同士。
しかも人数が増えることも大いにあります。
普段から行き来のない相手もいるであろう、いとこ同士が大勢集まって、意見を合わせて【遺産分割協議書】を作成し、署名・捺印をしなければ、次の世代はこの家を相続することができないのです。
結局、【共有持分】は、問題を先送りしているにすぎず、その間も固定資産税の発生や実家の維持など、問題は次々に浮上してきます。
おすすめの対処法
あくまでも平等な分割にこだわるのであれば、土地・建物を売却し、得たお金と現金財産である900万円を合わせ、その現金を3分割することが一番スッキリと解決します。
こういった場合、頼りになるのは相続税に強く、長年相続問題に対応してきた税理士です。兄弟が揃ってご相談されることがおすすめです。
②今住んでいる土地や家に相続権があるとは限らない
末娘は母の看護、介護のために仕事を辞め、母と同居しました。
そのため、両親の土地と家には現在、末娘の夫と子ども、つまり一家が住んでいます。
末娘にはこんな自負があることでしょう。
・母の介護を一手に引き受けた
・入院中の洗濯やカンファレンスなどもすべて自分がやった
・母の介護のために自分の仕事を犠牲にした
・母の介護のために、自分の家庭を巻き込んだ
こういった場合、自分もその家・土地に住み、親の介護をすべて引き受けたうえ「今は私たちが実際に住んでいるんだから、土地と家は私が引き継ぐのが当たり前でしょ。今更私たちを追い出さないでしょ」と末娘が考えている可能性が非常に高いと言えます。
二世帯住宅を建てた場合は、親亡き後、親が使っていたスペースも末娘の一家が自由に使えると考えてしまうこともよくあります。
しかし、これは残念ながら単なる「自己主張」にすぎません。財産には【寄与分】といって、親が亡くなる前に貢献した人の相続が不平等にならないよう、相続分をある程度増やせる制度があります。
法的に認められている【寄与分】は、財産の維持や増加に貢献した人と定められており、介護や看護、生活の世話などはあくまでも兄弟同士の話し合いの範疇になっていました。
しかし民法の改正があり、兄弟やその配偶者が介護者だった場合は、貢献を認め取り分が配慮されることになりました。
そんな社会通念に乗って、兄弟で末娘の介護に関する貢献を認め、取り分を配慮するとすんなり決まれば良いのですが、たいていは兄弟の配偶者の思惑などが絡み合い、もめることが少なくありません。
・長男の嫁が「私は長男の嫁としていろいろな法事などに貢献してきた」
・次男の嫁が「私はお義母さんに気に入られなくて、嫁いびりをされてきた」
・長男が「うちの息子は2人とも医学部に入ったのでお金がかかる」
・次男が「うちは一人娘だが、婿をとって二世帯住宅を建てる予定でお金がかかる」
・末娘の夫が「ここに引っ越したせいで通勤時間が長くなり我慢を強いられてきた」
兄弟全員に加え、それぞれの妻・夫が意見を主張してきたら、収拾がつかなくなってしまいますね。
おすすめの対処法
できれば両親が健在なうちに、親のお金の管理の仕方や介護に関する貢献と財産取り分についての話し合いを兄弟全員で進め、できるだけ公正証書として残すようにしておきましょう。
③実家を空き家にして価値をさげる
末娘が母の死をきっかけに実家から離れることになると、実家は実質空き家になってしまいます。
実家に思い入れがある場合、「現金分だけ相続して、実家はとりあえず共有持分にしてそのまま残しておこうか」という話になることがあります。
実は、家というものは人が1か月も住まなくなるとどんどん老朽化してきます。トイレや洗面台、キッチンなどから下水の臭いが漏れ出すこともあります。窓を開け閉めしないため、湿気がたまってカビが生えることもあります。
こうなってしまうと、家を再生することはとても大変です。そのため、できるだけ実家を放置し、空き家にしてしまうことは避けましょう。
おすすめの対処法
住んでいない家の定期的な手入れは意外と大変です。他県に住んでいるとなると、まず無理があります。
兄弟の誰かが住み続けて維持するか、どうしてもできない、ということであれば管理の委託や賃貸、売却するなどして保存する方向を検討してみましょう。
④土地の名義変更が長年されていない
いざ相続しよう、不動産も売却しようと話がまとまったところで、不動産関係の書類を取り寄せて「え!?」となるのがこのケースです。
土地の名義変更がストップしたまま、祖父の代から変更されていないということもあります。不動産の名義変更は義務ではなく、期限もありません。そのためそのまま放置されてしまうことも少なくないのです。
しかしいずれ売却するためにも、きちんと相続するためには、祖父の代までさかのぼり、父・母・自分へと3回名義変更をしなければなりません。
そのためには不動産に関わる遺産分割協議書を再度作成したのち、登記関係書類を準備しなければなりません。祖父・父・母の分の書類もすべて揃え、名義変更を行います。
その際、祖父の子どもが父だけなら良いのですが、兄弟姉妹がたくさんいた場合、伯父叔母をすべて回って不動産に関する遺産分割協議書に署名・捺印してもらう必要があります。ケースによっては相続人が何十人になることもあります。
伯父叔母の世代も亡くなっている人が多い場合は、さらに自分のいとこたちを回り、同様に署名・捺印してもらわなければならず、その手間たるや想像を絶します。
おすすめの対処法
両親が健在なうちに、家族全員で集まり、土地相続に関する話し合いをしておきましょう。事前に誰かが法務局に出向いて、不動産の登記や名義などをきちんと確認します。
その時点で、名義変更がストップしていることに気づいたら、法務局でどうすればよいのか相談してみましょう。相談だけなら無料で応じてくれます。
⑤現金を相続しない場合、相続税は貯蓄から払うことになる
今回のケースでは、相続人が3名になるので、免税点非課税枠は4800万円となります。そのため、3900万円の財産では相続税の対象にはなりません。
そこで、相続財産が6000万円あったと仮定しましょう。不動産分が3000万円で、現金分が3000万円です。
母と一緒に家に住んでいた末娘がそのまま土地と建物、つまり不動産を相続し、残った現金分を長男・次男が等分したと仮定します。
現金財産は長男・次男が継いだため、長女は一見最も大きな財産を継いだように見えて、現金は懐に全く入っていません。住んでいる不動産を売却することはできないため、相続税は自腹で払わなければならないのです。
おすすめの対処法
相続する財産に相続税が発生する場合は、両親が健在なうちにそれぞれの子ども達が支払うべき相続税に対しても話し合い、知っておくことが必要です。
来るべき時に備えて貯蓄をしておくなり、相続人を受取人に生命保険に入っておくなり、土地の一部を売却してお金に換えるなど、事前に準備しておくことでその後の苦労もかなり違ってきます。
長女は母を看取った功労者ですし、現状この家に住んでいるわけですから、一見丸く収まったように見えます。しかし相続の総額が4800万円を超えるため、長女は自分が相続する不動産分、3000万円に対する相続税を支払わなければなりません。
相続でトラブルになる前に、相続に強い税理士に相談を!
相続問題はニュースやドラマでよく目にするわりに、自分の身にはなかなか起きないことです。そのため、いざという時になって初めて自覚し、慌てて、結局親族ともめてしまうという結果になりかねません。
そうならないためにも、家族が元気なうちから財産はどう処理するべきかを話し合い、相続に強い税理士に相談して、家族みんなが納得できる道を探しましょう。